タイ、バンコクを選ぶ理由

なぜ日本人はタイ、バンコクを選ぶのでしょう?

古くは1960年代から今にわたるまで、日本から観光客はもとより、多くの日系企業そして多くの現地滞在者を惹きつけてやまないタイ王国、そしてその首都バンコク。すでにタイ国内の日本人のコミュニティーは小規模な仲間内の集団に留まらない規模までに膨れ上がっています。何故これだけ多くの日本人、企業がタイに惹きつけられるのでしょうか?その理由としては以下のような要素が挙げられます。

(1)政治経済が安定している

タイではかれこれ1960年代には日系企業の進出が始まっており(トヨタ自動車タイランドの設立が1960年、タイ矢崎電線が1962年、日本発条(泰国)が1963年。当時が最初の進出ラッシュ)その後も断続的に進出ブームが起こり、現在ではタイ国内の日系企業は優に2000社を超えるまでの規模になっています。

これほどまでの企業進出の背景には「政治が安定している」という大前提がありました。タイは東南アジアの中では唯一西欧諸国の植民地支配を免れ、1872年からの王制が形を変えながらも継続されてきた、というのは大きな要因のひとつでしょう。
他のベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー、インドネシアでは社会・共産主義国家の設立や軍部独裁の成立その後の戦争や騒乱などで安定を見るには時間がかかりました。この点タイは戦前からのピブンソンクラーム政権以降軍部が主導した政権が続きましたが試行錯誤を加えながらも民政への移行を行い、数次のクーデターによる軌道修正などもありましたが大きな混乱を迎えることなく現在に至っています。

特に重要な転機だったのが「開発独裁」を推進し、なおかつ「国王の象徴化」を推し進めたサリット首相(任期1959~1963)の政策とそれを原則継承し、「国王の権威」を保ちながらその下で民生への移管を図る努力を続けてきたプレム元首相(現枢密院議長、首相任期 1980~1988)の力が大きいでしょう。「開発独裁」政治はアジアなど旧植民地で広く行われ、タイの隣国であるマレーシアやシンガポールでも1党独裁による政治がいまだに継承されています。しかしタイのように軍部独裁から議会制民主主義(若干制限はありますが)への意向をスムースに行ってきた国は欧米日の先進諸国をのぞけば非常に稀有な存在でしょう。それを可能にしてきたのは「作られた国王の権威」に収まらずご自身の才覚と努力で軍と政治、そして民衆の上に「実質を伴った国の象徴」となったプミポン現国王陛下の力によるものが大きいのです。

政権交代や軍のクーデターにも関わらず国王への絶大な信任がもたらした政治の安定はその間の経済の安定的発展を招き、ASEANでも有数の経済大国へと成長を遂げました。こうした背景が事業の継続的な発展を望む日系企業のメガネにかない、多くの企業を受け入れ、それに伴って滞在する日本人の増加とそのマーケットに対する各種のサービスの充実を生んできた、といえるでしょう。

(2) 社会の基本インフラが整備されている

(1) で述べた政治的安定は国内のインフラストラクチャー(電力、水道、交通網など)の斬新的な、しかし継続的な整備の後押しをしてきました。政権は変わっても「国の骨格を整備する」という大方針が維持されてきたためです。このため現在では停電も少なく、電話回線は固定、携帯そしてインターネットを含めて充実し、生活用水に不自由なく暮らすことの出来る上下水道網も整備され、さらには直近のバンコク首都圏内や郊外に向かう高速道路網の整備拡張、首都圏における電車(高架鉄道BTS、地下鉄MRT)の設置など暮らしはさらに便利になりました。また学校教育も充実し、就学率も向上、大学も各地に設置され次々と新しい人材を世に送り出しています。これらのことは当然のことながらタイに滞在する日本人にも便利な生活を提供しています。以前に比べて遠方への出勤時間も短縮され、洪水に悩まされることも減り、携帯電話でインターネットに接続して最新情報を得ることも出来る社会になってい ます。

(3) 日本と比較して物価が安い

こうした発展の一方、その発展度自体ではシンガポールなどに劣ることもあって人件費はまだまだ安いこと(中国やベトナムに比べれば高いですが)。さらにそれを配慮した政策もあって燃料価格などが意図的に抑えられている効果もあり、日本に比べればはるかに安い物価がキープされています。日本との物価の差はモノやサービスで比較してみて幅はありますが概ね3分の1から5分の1の間でしょうか。大学卒の初任給が日本円換算で5万円程度。安いワンルームのアパートで部屋代が月に1万円から1万2千円程度。それに比べると一膳飯屋のご飯(日本の定食に相当)は75円程度とかなり割安。このため定年退職後の日々をタイで過ごす「リタイアメントビザ」で滞在を計画する方たちも増えているわけです。

ただし注意が必要なのは「日本と同程度の生活をしようとしたらかなり高くつく」という点ですね。この視点を忘れてはいけないと思います。駐在員用などに提供されているアパートや貸しコンドミニアムの賃料は月12万円から18万円台も珍しくありません。また日本料理屋でラーメンを食べれば一杯450円から600円近くは払うことになります。こちらで自炊するのに調味料を日本のブランドに限れば売ってはいますが輸入品ですので当然日本より高くつきます。いくらモノが豊富にあっても「日本と同等の生活」を維持しようとしたら相応に費用が余計にかかることは頭に入れておきましょう。

(4) 日本人既居住者が多く日本人向けの環境が充実

タイには上で書いたように日系企業が多く進出することで、駐在員のみならずその家族も多くがタイに滞在しています。また北部の山岳地帯や南部のプーケット等、東部のパタヤまど観光名所の多いタイでは日本人の観光客も多く訪れます。このため日本人向けのサービスも充実しており、レストランも日本人経営の店が多く、中には日本の大手定食チェーンが進出したり、ラーメンにいたっては日本の専門店チェーンも多く進出するようにまでなりました。こういった店は当然のように日本語のメニューを用意してあります。昔はより日本の食材の充実していたシンガポールに食料品の買出しに行く人もいましたが、今ではフジスーパーや伊勢丹の、エンポリアムのスーパーマーケットなどで大抵のものは購入できます。多くの大手病院では日本人の通訳を置いたり、中には日本人専門の窓口を設ける病院もあるなど言葉に苦労せずとも暮らしていける場面が着実に増えてきています。

こういった動きを背景に「ハロータイランド」のような日本人のための電話帳なども発行され、さらには在住日本人のネットワークの中から各種のフリーコピー紙が生まれ、「タイ在住者によるタイ在住者のためのガイドブック」なども生まれています。このためバンコクは日本人が生活がしやすい世界有数の都市となっています。世界一日本人が暮らしやすい外国の都市かもしれません。

(5) 日本人にフレンドリーな国民性

欧米やアジアのほかの国に比べ、日本人とタイ人の間ではいくつかの共通項が存在します。ひとつは人種的なもので、タイを訪れると分かりますがタイ人には華僑の血を引く人も多いため一見して日本人と判別がつかない顔つきの人も多くいます。また日本と同じ(実際は大きな宗派の部分で異なりますが)「仏教徒」が多いということもマレーシアやインドネシアなどイスラム教圏の国とは一線を画しています。そして古くは第2次世界大戦前から日本もタイ同様に独立を保ち、有形無形の形で支えあってきた過去があります。さらに現在ではアジアの中では日本は一頭地を抜けた先進国であるがためにタイ人にとっては「憧れの国」となっています。(若者のファッションも日本のファッションの後追いをしています)そのようなこともあって基本的にはタイ人は日本人には概ね友好的に接してくれます。日本からの輸出品に市場が席巻された1960年代こそ日本製品排斥運動のような運動が起こりましたがその後はむしろ先に書いた「憧れ」の部分が大きくなっているように思われます。また現実的かつ重要な要因ですが多くの日本人は普通のタイ人よりもお金を持っている、ということももちろん態度に表れてきます。こうした色々な要因もありますがタイ国民から日本人に対して友好的に接してくれる空気があるのは間違いなく、これがタイで暮らしていくのに重要な要素に成っていることも間違いありません。

以上に述べた要素を総合しても、アジアの中で政治経済的に他国と比較して安定してきた歴史を誇り、民族・宗教的に近く、住環境などが整備され、すでに多くの日本人向けサービスが充実しているタイ王国、特にその首都バンコクというのは日本人を惹きつけてやまない魅力を有しているといえるでしょう。